「モチベーション3.0」が日本の大部分の企業で(おそらく)浸透しない3つの理由
2010年 08月 25日
こうも暑いと、何かとやる気が出なくなる今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。やる気といえば、最近、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0~持続する「やる気!」をいかに引き出すか~』(以下、モチベーション3.0)が大前研一さんによって和訳されましたね。
今回の「やっくんとれっくんの時事放談」は、いつもやる気のない二人が、「モチベーション3.0が日本の大部分の企業で(おそらく)浸透しない3つの理由」と題して、わりと真面目に放談します。
【J】 どうも~、やっくんで~す。
【L】 れっくんで~す。
【J】 れっくんは、モチベーション3.0は読みましたか?
【L】 読んだ読んだ。まぁ、面白かったけど、
新鮮味はそれほどね。
【J】 なんか、かなり腹立つコメントですね。
そんなに、新鮮味はなかったんですか?
【L】 ま、この本で書かれてるポイントを、ざっと適当に要約すると……
・モチベーションは、次の3つの種類がある
「モチベーション1.0」:食べる、生殖などの生存本能に基づくもの
「モチベーション2.0」:アメとムチで駆り立てられるもの
「モチベーション3.0」:自分の内面から湧き出るやる気に基づくもの
・様々な科学的検証から、アメとムチのモチベーション2.0は、
かえってやる気を下げる結果が出ている。
(ゴールの決まった単純作業には有効)
・カネ、出世などがほしい!(外発的動機)の人:タイプX
自分を高めたい、社会に役立ちたいなど(内発的動機):タイプI
・モチベーション3.0でやる気を出す要因:
「自律性」「熟達(マスタリー)」「目的」
・自律性:労働時間や作業場所の制限なく、ただ結果を出す(ROWE)
20%ルール(仕事時間中20%は、本来業務と関係無い事をやっていい)
・熟達:自分にとって意味のあることを上達させたいという衝動。
その道は苦痛であり、かつ理想には近づけるが到達できない。
その過程で「フロー(集中)」と呼ばれる領域に入る事が必要。
ゴルフの石川遼選手とか、
野球の鈴木一郎選手をイメージするとわかりやすい。
・目的:自分よりも大きいこと、自分の利益を超えたことのために活動したい
……ま、他にも色々書かれてるけど、ざっとこんなもん。
ただ、タイプXとタイプIって、
マクレガーのX理論とY理論と言ってることは変わらないし、
全体的に、それぞれの項目では、昔から言われていたことでもある。
【J】 つまり、理論的、科学的に整理はされているけど、
言ってることは、大体昔から言われていた、と。
確かに、X-Y理論って、1960年代に発表されてますしね。
じゃあ、何で、モチベーション3.0(的な企業文化)は一部の例外を除いて、
ほとんど浸透していないんでしょうかね?
【L】 そう、そこがミソなのよ。ダニエル・ピンクは、
「モチベーション2.0の間違いは、
科学で証明されているから、
科学とビジネスの慣行のミスマッチを埋めればいい」
な~んて言ってるけど、事はそんなに簡単じゃない。
人間は、経済的合理性でも動かないけど、
科学的合理性でも動かないからね。
もっと、感情的などろどろしたものが、人間を支配している。
■理由1:モチベーション3.0の前提は「公平さ」にあるが、それを維持するのが難しい
【L】 モチベーション3.0が浸透しない第一の理由は、
モチベーション3.0の前提は「公平さ」にあるけど、
それを維持するのが難しいから。
「モチベーション3.0の前提は公平さにある」ってのは、
本の中でも書かれている。
【J】 「公平さ」ですか。
【L】 分かりやすくいえば、ハーズバーグの二要因理論でいうところの
「衛生要因」にあたる。
【J】 逆に分かりにくくなっているんですが。
【L】 「衛生要因」とは、「不満を引き起こす要因」のこと。
「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」など。
たとえば、
「方針が、ころころ変わる」「上司が、明らかにえこひいきしてる」
「仕事量と比較して、明らかに給料が低い」
……どう? やる気がなくなってくるだろ?
【J】 確かに。
【L】 日本の労働環境についてネットや雑誌などで見てみると、
いかに衛生要因が高いかが分かる。
たとえば……
「正社員と派遣社員で、作業内容が同じにもかかわらず、
給料が全然違う(正社員と派遣の格差問題)」
「明らかにあの人はほとんど働いていないのに、
なぜ私と同じ給料をもらっているの?(フリーライダー問題)」
「A子さんって、結婚して子ども産んでから、残業しなくなったよね。
会社もそれを容認してるし。
私みたいな独女には、やってられないわ
(ワークライフバランスに伴う副次的不均衡)」
「外国人労働者が、工場作業中にお祈りを始めるから、
作業ラインが止まってしまう。(ダイバーシティに伴う副次的不均衡)」
「結婚旅行をしようにも、有給がとれない。
有給って、労働者の権利じゃなかったの?(労働時間に関する問題)」
【J】 どれも難しい問題ですね。
【L】 ハーズバーグの二要因理論のポイントは、
衛生要因は、解決してもやる気向上にはつながらないが、
不満がたまって、確実にやる気を削いでいく、という点。
【J】 不満たらたらのなかで、
「自分よりも大きいこと、自分の利益を超えたことのために活動したい」
なんて、普通考えられませんよね。
■理由2:有給もとれないのに、ROWEが実行できるわけがない
【J】 ROWEって、たとえば、
「この日は、午後から出社しよう。」
「この日の午後からは、子どもの運動会を応援して、それから仕事に戻ろう」
といった時間裁量を自由に決めることで、自律性を高めよう、
ってことですよね?
でも、毎日朝から夜遅くまで働いている日本のサラリーマンに、
そんな時間裁量がとれる権利って、あるんですかね?
【L】 ないね。それこそが、モチベーション3.0が浸透しない第二の理由だ。
土日出勤当たり前、1年で休みがあったのは自分が倒れた時だけ。
有給取得率を向上させるのに国がてこ入れしないといけない状況で、
ROWEとか言ってる状況じゃない。
【J】 ま、不況で残業時間を制限している企業も多いから、
その点では、今がROWEを実行できるかもしれないチャンスかもしれませんね。
【L】 あと、新型インフルエンザも、ROWEの浸透、という点では、
一つの契機になったかもしれない。
【J】 どういうことですか?
【L】 新型インフルエンザが流行った時、社員が長期間発病した時のことを考えて、
自宅内で業務を行えるシステムを構築した企業が何社かあった。
今後も、新型インフルエンザ等の流行に伴って、
自宅で業務を行えるシステムを導入する企業が増える事が予想される。
そうすると、ROWEの浸透につながる可能性が、少しだけある。
【J】 まぁ、20%ルールとかであれば、
何とか捻出できるかもしれませんね。
【L】 ただ、勤務時間がこれまで朝9時から夜9時までだったのが、
朝9時から夜12時までになって、
かつ20%ルールの時間帯は給料はなし、となったら、
確実にモチベーションは下がるだろうけどね。
【J】 ありえないとはいえない話だけに、笑えないですね。
■理由3:多くの人は、「人間は怠惰かつ自己中で、アメとムチでないと動かない」と信じきっている
【L】 モチベーション3.0が浸透しない第三にして最大の理由は、
「人間は怠惰かつ自己中で、アメとムチでないと動かない」と
多くの人が信じきっている点にある。
マクレガーから50年近くたっても、
現場の管理者クラスは、X理論の信奉者であることがほとんどだ。
【J】 でも、それは科学的に間違っているわけですよね?
【L】 科学的に間違っていること以上に、
経験的に正しいことのほうが優先されるやね。
実は、上司や会社は、部下にやる気を出させることはできない。
部下自身がやる気になる環境を整えることしかできない。
(衛生要因を減らし、モチベーション3.0のそれぞれを実践)
それができなければ、部下は怠惰かつ自己中になる。
そうなると、アメとムチを振るいまくるしかない。
【J】 つまり、上司、それ以上に会社そのものが、
環境を整えられなかった場合、
X理論以外に、人を動かす術がない。
自然に、X理論の信奉者にならざるを得ない。
【L】 そしてX理論の信奉者になると、
それ以外のやり方は「ウソっぽい」「理想論だ」と拒絶反応を示すようになる。
アメとムチで動かされた部下は、それ以外の方法を知らないから、
上司になっても、アメとムチでしか部下を使えない。
こうして、X理論、モチベーション2.0は遺伝していく。
【J】 う~ん。じゃあ、モチベーション3.0が浸透するにはどうすればいいんですかね?
■ゆとり世代新入社員の増加は、企業がモチベーション3.0に向かうチャンスかも
【L】 実は、今の日本企業は、モチベーション3.0を導入して発展するか、
それとも衰退するかの瀬戸際にあるといっていい。
その鍵を握るのが、ゆとり世代新入社員の増加だ。
【J】 といいますと?
【L】 ゆとり世代の価値観と、モチベーション3.0とは、
非常に親和性が高いからさね。
というより、ゆとり世代はモチベーション3.0でないと、
やる気を引き出せないといっていい、と考えている。
【J】 アメとムチ、人との競争といった、
モチベーション2.0的な価値観では、
ゆとり世代ってやる気起きなさそうですよね。
なんてったって、「ナンバーワンよりオンリーワン」ですから。
【L】 ゆとり世代の上の世代だと、
上司が同期社員との競争をあおって、
それでやる気出していたけど、
今それやると「意味分かりません」って言われるのがオチだ。
そうではなくて、
「業務を通して、1年後にはこうなっているといいよね」
と自分軸で意識させると、やる気がおきやすい。
【J】 「熟達(マスタリー)」に近いですね。
【L】 あと、自分の時間を大切にするゆとり世代にとっては、
「自律性」がとれるかどうかは大事だし、
環境や社会への貢献に対する意識が高いから、
「目的」が明確になっているかが大切だ。
【J】 ゆとり世代って、使えない人間の代表格のように言われてますけど、
そんなことはないんですね。
【L】 いや、モチベーション2.0の信奉者にとっては、
ゆとり世代は使えないことこの上ないから、
今言われていることは、あながち間違っていない。
それは、翻せば「自分たちはモチベーション2.0の信奉者です」って、
高らかに宣言していることと、そんなに変わらない。
【J】 まぁ、挨拶といった基本的なことができない、って批判もありますけど。
【L】 別に、ゆとり世代を全面擁護する気はないけど、
「知らない人と話したり、ついていってはいけません」
と小さい頃から教育されれば、
初対面の人に挨拶しなくても、しかたがないかもしれんね。
■最後に
【L】 まぁ、モチベーション3.0が浸透しにくい理由について、
いろいろ書いてきたけど、
別に「できない理由」を挙げて、
だからモチベーション3.0なんて理想論だ、
と言いたかったわけじゃない。
ここから、モチベーション3.0が浸透するにはどうしたらいいかを、
考える呼び水になればと思ったわけさね。
【J】 言いたい事は分かります。
【L】 でも、一度定着してしまったものを変えるのは、
新たに作ることよりも、莫大なエネルギーが必要になる。
その点では、NPOや社会起業家たちによって、
モチベーション3.0が実行される方が、
はるかに早いとはいえる。
【J】 NPOや社会起業家が、モチベーション3.0の先駆者になって、
事例を増やしてほしいですね。
(J&L)
