教える立場
2010年 07月 24日
在日外国人に対し、日本語教育と通訳付きでビジネスマナーを教えることで就労をサポートする仕事をしていますが、日本語教育はともかく、ビジネスマナーの授業はとても難しいものがあります。
ビジネスマナーは日本人からすると、就労のためには必要度が高いかと思われますが、日本語がままならない在日外国人の方にとって、挨拶の仕方、履歴書の書き方、身だしなみなどよりも、結局は面接での受け答えができるだけの語学力を必要としているのです。
さらには、彼らが就ける仕事というのは、結局のところ、3Kといわれるような、人前に出ることの少ない職業なのです。それで、ビジネスマナー講習は欠席者が目立つようになりました。
しかし、一度、その講習において、外国人の心を掴んだ講師がいました。その講師が繰り返していたのは、「素敵です、皆さん!」という言葉でした。「皆さん、本当に素敵です!素敵だけど、でも今までやり方がわからなかっただけなんですよね?」
マナー講習でありながら、先生は固いことなしに、始終、話し言葉で語り続け、学生たちとあっという間に仲良くなっていきました。そして、講習が終わるころには、学生たちの目が輝くようになっていました。
彼らに一番必要だったのは、マナーを教えること以上に自信を持たせること、あるいは自信を回復させることでした。なんとしてでも就労のために必要な語学とマナーを教えなければ、という思いは、彼らには重いだけだったのです。
切実な状況で自分の望まない仕事でも希望を出しながら、面接で落とされてしまう経験を何度も繰り返してきた彼らは、ほぼ自分や日本の会社に希望を持てなくなっていました。
日本語が分からないながらも意志を伝えようとすること、会社に心を開いて飛び込んでいこうとすることに対して、臆病になっていました。母国では高学歴だったり、有能な職業に就いていた人ならなおさらそうだったのでしょう。それに気づきませんでした。
教える立場、というのは怖いものです。分からない相手に伝えるという行為、特に日本語や常識やマナーなど、日本にいたら誰でもできるようなことを、日本人というだけで先生と呼ばれてしまうのです。もしくは、年が上だから、ということだけで、先生になってしまうこともあります。
相手にするのは一人ひとり違ったか感情を持つ生身の人間です。伝える内容や教え方が大切なのはもちろんですが、メンタル面もマニュアルどおりにはいきません。その人の経験してきた背景や、心の状態をきちんと把握することなしに、本当の教育はできないのだと実感しました。これは外国人に限らないことですが、人の上に立つのであれば、本当にその人と心で向き合う姿勢が改めて大切だと思いました。(midori)
